○回目乃日回目乃○

青い光を顔に受けて、目がチカチカした。昼間からカーテンを閉め切っているせいで、部屋には四角い形の一つの暗闇が出来上がっている。これが映画であれば、暗闇に浮かぶ病弱な顔が、幽霊染みた演出で映し出されるシーンだろうと思った。休日の昼間というと田舎の場合は死んだように静かで、この静寂の発生源を辿った先には猫の死体くらいならあるかも知れない。本当に、自分の押すマウスのクリック音くらいしか音が聞えなくて、落ち着いたり逆に不安になったりする。ほとんど習慣的にお気に入りページを押して巡回してゆく、そのほとんどは目の端へ流してゆくが「座って過ごす時間の長さは死亡率に比例する」という内容の記事が目で思わず目が留まった。自らの未来に直接関わっていそうなだけに、放っておけなかったのだと思う。

(ですので、とにかく多数に見向かれる記事を作成したいという方は、
無理やりにでも"自分と関係している"というインパクトを与えてあげれば良いと思います。)

本当はこういう風にだらしなく脳の入り口を開いて情報の海に浸る行為は、不健康かつ無思考な自滅の一路だという結論を出して自粛をしていた。けれど、社会に弾き出されてからというものの、僕の世界は途端に静かになって、それは諸刃の剣でもあるのだけど、まさに僕の顔の方へとじりじりと迫り寄っていた。脳の不活性化が、皮肉にもそれは年中無休で僕の脳味噌を侵し続けているように思えてならなくなった。外界からの刺激が少なく、若い内から脳が老朽化してしまうかも知れない。それは本当に怖い。けれど実際にそうなってしまって御終いな自分を想像すると可笑しい。

瞼を光が撫でる感覚に気付いて、はっと目を開いた。どうやら僕は何年分にも及ぶくらいの長い夢を見ていたらしい。今は何時だろう? 早く学校に行く支度をしないと。PCモニターの右下に映し出されていた時刻は12:00だった。昼間まで寝過ごしていたのだろうか?時刻のすぐ下には日付を示す数列が並んでいる。「2017年」と表示されていたので、ちょっと困惑した。それから、いつも壁に掛けている筈の学生服の姿が無い。黒いハンガーだけが裸でぶら下っているし、微かに埃も帯びている。唯一、母親に渡されたカレンダーだけが、僕の"正しい日付"のままで凍り付いていた。それを見た瞬間に僕は全てを悟って、風船の御終いの様に、溜息そっくりに笑うくらいしか出来なかった。でも、これで予習も課題もしなくて良いのだし、地獄の底のようなあの学校にも行かなくて良いのだと安心した。同時に何故か、様々な感情の織り交じった、形容のし難い紫の色の塊が、胸の深奥から止めどなく込み上げてきた。僕は堪らず両腕を机に投げ出して、その隙間に出来た闇の中へと頭を浸した。嗚咽が止まらないが、涙はとっくに枯れてくれているらしい。半開きの窓の奥からは、ツクツクボウシの鳴き声が聞こえた。ちょうどアブラゼミとクマゼミが死に絶えた時期から出てくるのだから、実に小賢しいヤツだと思った。窓の近くに置いてある、干からびて枯草と石だけになってしまった水槽が「スー、スー」と子供の寝息の幻聴を始める。無意識に腕をさすった。高速再生のクラシックが鳴り響く。時折混じるノイズで息継ぎをしないと意識が持たない。頭が割れそうに痛い。三角形の見えない蝶々が埃と一緒に舞う。遠い時代に死を残してきたらしい…

ただいま、僕の新しい日常。

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