死体と蛙とエアーガン

川辺を歩いていると近くに居た人が誰かに撃たれた。
顔は見えなかったが、撃たれたのはスーツ姿の男性らしいことがわかった。
腹部辺りから鮮明な赤い血の水たまりがじんわりと広がって行く。
その脇に佇む青々と茂った林の色と対照的に映って、妙に美術的な光景に思えた。
「しかし、一体誰から撃たれたのだろうか?」と不思議だった。
直後、遠くから警察の気配が迫ってくるのを感覚で覚った。
何か勘違いされたくなかった俺は、少し離れた場所にある
川辺の内でも最もカエルの多い一帯まで一目散に走り抜けた。
本当に地面を覆いつくすほどの小さなカエルだからけで
時たまその跳ねたやつが頬にまでぶつかってきたりした。
嫌に冷たく柔らかい感触が頬に残る。
それはさておき、今の大事は警察の追手が来ないかで
手にはおもちゃとはいえ物騒に見えるエアガンを握りしめていたことも危機感の一因だった。
おもむろにポケットに手を突っ込んでみると千円札が入っていた。
追手のような気配もなく、一先ずは大丈夫そうで安心した俺は、
数メートル先に佇んでいた駄菓子屋が目に留まった。とても懐かしい感じがする。
朽ち木のスライド扉に手をかけて開いた。
音に気が付いてくれたのか、奥から自分の母親と同じくらいの歳に見える女性店主が出てきた。
俺の顔を見るとその店主は露骨に目を丸くさせて、何か並みならない感情から微かに震えているのもわかった。
そうした少しの沈黙の後、店主の方から「いらっしゃい」と声をかけてきた。
俺は少々圧倒されたので、かしこまって言った。
「突然失礼します。駄菓子を買わせて頂きたいのですが…」
一瞬、追い返されたりするのかと思ったが
、店主の反応は予想していた以上に歓迎してくれる風で
「良ければご飯も食べていきませんか?」と切り出された。
俺はしばらく躊躇した後、自分の腹が減っていたことにも気が付いて
「あの…お言葉に甘えさせて頂きます」と小さな声で言った。
靴を脱いで上がり込むと、駄菓子屋の店内は外観から察していた以上に広く
ショッピングモールのフードコートの様な施設まであり
その中の店員の手つきや捏ねている小麦粉の塊などからうどん屋らしいと思われる店では
島田紳助という元芸能者と同じ顔の店員が一人で切り盛りしていた。
見た目にはうどん屋らしいのに、メニュー表にあったのは僅か二つの御品書きで
一つは海鮮丼ぶりのようなもの、もう一つはたれ染み込ませて焼いたご飯の下に
同じく焼いた鯖辺りの魚を敷いたものだった。
寿司一貫程のサイズのものが三つで値段が350円もした。
少し高すぎると思った。
ちょうどその時ご飯の準備が出来たということで、駄菓子屋の店主が俺を呼び戻しにやってきた。

昔ながらの畳の部屋とその上に置かれた円形の食卓の前に座って
ご飯やみそ汁などを戴いた。店主は俺と向かい合う形で座り
自分は何も食べずにただ俺の姿を眺めていた。
俺は然程気にもせず箸を進めていた。
ある時、店主は口を開いて、実は俺の顔が以前亡くした店主の娘にそっくりなのだと伝えられた。
俺はなんだか誇らしいような恐れ多いような感覚になった。
それを切っ掛けに、店主は沢山話をしてくれた。
数年前に国がインターネット文化を廃して以降
国民の語彙力が急上昇した(実際の口頭では"アカウント制廃止以降~"という特殊な言い回しで語られた)とか。
この駄菓子屋店内のガシャポンコーナーはかつて地域屈指の品ぞろえを誇ったが
娘を亡くして以来、気力が無くてすっかり放置しているという内容だった。
部屋の隅に赤、黄、青色などのカラフルな空カプセルが
無数に積み上がっているのはそういうことなのかと納得した。

兎に角すっかり駄菓子屋の情緒や
この場所に染み入っているであろう様々な人の想いに意識を覆いつくされていて
先ほどまで全霊で危惧していた警察から濡れ衣着せられる危険性などはとうに消えていた。
外から何か喧噪やパトカーの音が聞こえることもない。
とりあえずは大丈夫だろうと、俺は安堵した。
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回想の十番


1.
高層ビルが海底に聳える時代 人間の理性の亡骸
見渡す限りのサンゴ礁 古い神様の慈愛の彩り

1.
僕は金縛りに陥るとサナギなる。手足が言うことを聞かずに声を上げることさえ出来ない。そうして身悶えしている内に、胸の辺りが小さく割れきて、透明な命の羽が姿を覗かせる。でもそれが柔らかすぎるのが心配になってきて、途中で止めて引き戻すから、僕はいつまでも蝶に成れずにいる。

2.
「こんにちは、仲間外れのネズミさん。罠は必ず甘い香りを放つから、あえて苦い香りの方を辿ってゆくと良いよ。ああ、それから言い忘れていたけど、君の仲間達はもうとっくに全滅したらしいよ。お気の毒さまだね。お道理さまの運命さまさまだね」

3.
我が子へ垣間見るその強烈に醜さは、つまり自身の姿見。
子供は貴方そっくりに形を成して、過去の貴方を回想させる、一番可愛い天使の試練でありました。
そして世界は繰り返されて、愛はせめてもの正気の器でありました。

5.
睡眠で焚いた真透明な炎で炙る四角いティーバッグ。薫り立つ複雑な記憶の色模様は、過去から成って尚且つ常に新しい。山の麓で真っ赤な水溜まりにキスをする少年。その髪は波の如くうねり、日光を受けて黄ばんでいる。掛けカバンから覗かせる細長い
鳥の脚が確かに可愛い。
…あれは死んでいるのだろうか?

8.
発光する爪の先。髪の毛だけは機械でなかった。
電子端末で照射した白いクッキーを噛む0カロリーの夜食。
立ち並ぶ街灯と、それの届かない影の中間を懐かしい人間時代の残像。
空の明るさを自由に変えられる。海と意思疎通が出来る。

13.
目を閉じても、耳を塞いでも、口を噤んでも
そんなことはお構いなしに世界は動き続けた。

21.
自分の腕が視界に入る度に、目がチカチカして不愉快でした。
病的なまでに白い肌が、日光を拒んで反射させていたのです。

34.
鉄橋から見下ろす海面は、跳ねる魚や波打つ変化で退屈とは無縁です。何処から来たかも知れないゴミが、旅人の心で浮いてもいます。今この海の黒さの中に転落すれば助からないだろうという不安感と、海面と鉄塊に二度冷やされた風の涼しさが私の命の底まで届いて、その清涼感には泣いてしまいそうです。

55.
午前9時9分。交差点に影が掛かる。劇場の様に世界が暗転した。通行人のざわめき。続けざまに叫び声。太陽の代わりに現れた、普段の10倍はある大きな月の姿。強烈な清涼剤の香り。月は急激に青ざめてゆき、遂には地球そっくりの姿に成る。地響きが聞こえる。迫る潮騒。
地球は2つも要らないらしい。



<完>

○回目乃日回目乃○

青い光を顔に受けて、目がチカチカした。昼間からカーテンを閉め切っているせいで、部屋には四角い形の一つの暗闇が出来上がっている。これが映画であれば、暗闇に浮かぶ病弱な顔が、幽霊染みた演出で映し出されるシーンだろうと思った。休日の昼間というと田舎の場合は死んだように静かで、この静寂の発生源を辿った先には猫の死体くらいならあるかも知れない。本当に、自分の押すマウスのクリック音くらいしか音が聞えなくて、落ち着いたり逆に不安になったりする。ほとんど習慣的にお気に入りページを押して巡回してゆく、そのほとんどは目の端へ流してゆくが「座って過ごす時間の長さは死亡率に比例する」という内容の記事が目で思わず目が留まった。自らの未来に直接関わっていそうなだけに、放っておけなかったのだと思う。

(ですので、とにかく多数に見向かれる記事を作成したいという方は、
無理やりにでも"自分と関係している"というインパクトを与えてあげれば良いと思います。)

本当はこういう風にだらしなく脳の入り口を開いて情報の海に浸る行為は、不健康かつ無思考な自滅の一路だという結論を出して自粛をしていた。けれど、社会に弾き出されてからというものの、僕の世界は途端に静かになって、それは諸刃の剣でもあるのだけど、まさに僕の顔の方へとじりじりと迫り寄っていた。脳の不活性化が、皮肉にもそれは年中無休で僕の脳味噌を侵し続けているように思えてならなくなった。外界からの刺激が少なく、若い内から脳が老朽化してしまうかも知れない。それは本当に怖い。けれど実際にそうなってしまって御終いな自分を想像すると可笑しい。

瞼を光が撫でる感覚に気付いて、はっと目を開いた。どうやら僕は何年分にも及ぶくらいの長い夢を見ていたらしい。今は何時だろう? 早く学校に行く支度をしないと。PCモニターの右下に映し出されていた時刻は12:00だった。昼間まで寝過ごしていたのだろうか?時刻のすぐ下には日付を示す数列が並んでいる。「2017年」と表示されていたので、ちょっと困惑した。それから、いつも壁に掛けている筈の学生服の姿が無い。黒いハンガーだけが裸でぶら下っているし、微かに埃も帯びている。唯一、母親に渡されたカレンダーだけが、僕の"正しい日付"のままで凍り付いていた。それを見た瞬間に僕は全てを悟って、風船の御終いの様に、溜息そっくりに笑うくらいしか出来なかった。でも、これで予習も課題もしなくて良いのだし、地獄の底のようなあの学校にも行かなくて良いのだと安心した。同時に何故か、様々な感情の織り交じった、形容のし難い紫の色の塊が、胸の深奥から止めどなく込み上げてきた。僕は堪らず両腕を机に投げ出して、その隙間に出来た闇の中へと頭を浸した。嗚咽が止まらないが、涙はとっくに枯れてくれているらしい。半開きの窓の奥からは、ツクツクボウシの鳴き声が聞こえた。ちょうどアブラゼミとクマゼミが死に絶えた時期から出てくるのだから、実に小賢しいヤツだと思った。窓の近くに置いてある、干からびて枯草と石だけになってしまった水槽が「スー、スー」と子供の寝息の幻聴を始める。無意識に腕をさすった。高速再生のクラシックが鳴り響く。時折混じるノイズで息継ぎをしないと意識が持たない。頭が割れそうに痛い。三角形の見えない蝶々が埃と一緒に舞う。遠い時代に死を残してきたらしい…

ただいま、僕の新しい日常。

静かな部屋 断続的スローモーション

陶器のカエルが一人掛けの赤いソファの上を飽きもせずに跳ね続けている。無表情で壁を眺め続けているだけの僕に向かって、カエルは「同じ物事を指す言葉でも国によって様々で面白いから、暇なら調べてみれば」と気の利いた提案をするも、僕の落ち着きのない意識はすでに白いテーブルの上の砂時計へと引っ越していて無効だった。



大男に襟を掴まれて深い森の奥へと引きずり込まれてゆく老人。元来た道を忘れない様に右目のカメラを使って一定間隔で風景写真を撮っている。「でも、日が暮れた頃には森は真っ黒になっていて昼間のような風景は見えないよ」と不安がる観客に向けて左目のライトでカチッとウインクを配る。



カーテンが膨らみ、部屋に賞味期限の新しい風を招き入れた。
窓から差す日はテーブルを照らし、上に置かれていた一粒のイチゴも照らされた。
イチゴは小刻みに震え始めた。
次の瞬間にはイチゴにびっしりと纏わり付いていた種が銃弾のようにはじけ飛び、種があった位置には代わりに細く小さな白いトゲのようなものが生えてきた。
何本ものトゲは見る間に伸びゆき、イチゴを本体にしてひょいと立ち上がり、そのままテーブル上をトコトコと歩き始めた。
トゲだと思っていたものは全て触手だったらしい。
これはイチゴに擬態した新種の生物なのか、或いはイチゴの中に何者かが住み着いているのだろうか。
そんなことを考えているとそれは突如進行方向を変えてこちらに向かって来たので咄嗟に近くにあったティッシュ箱叩いて吹き飛ばした。
壁に激突したそれは衝撃を察知して白い触手を全て引っ込めてしまったのか、床に落ちたそれは種さえ無くなってはいるものの至って平凡なイチゴの姿に戻っていた。
一度も読んでいないポスティング広告を使って恐る恐るイチゴを救い上げ、キッチンにあった二本の菜箸を使って分解を始める。
中身は微かに抉れたような跡があったものの、不思議なことにそこにあったのは特に異変の見られない普通のイチゴの中身だけであった。
すると先ほどまでの奇怪な光景はなんだったのか。
単に寝ぼけて幻覚でも見ていたのだろうか。
呆気にとられている私の視界に、無数の触手で水槽の底を這う珍妙なネオンテトラの姿が映った。



コンクリート塀から垂れ下がっている細長い鎖の先端には金色をした金属製の輪っかが付いていた。
電柱の影からでてきた二足歩行のキリギリスはトボトボとその前まで歩いてゆき、
頑張って自作したらしい木の枝のハシゴを立てておもむろに登り始める。
頂上に着いて金属の輪っかを両手で抱えたところで、電柱の上部のスピーカーからは「おー! 一気にグイッいけ!」などと楽しげな声援や手拍子が鳴り響いた。
キリギリスの体重によって鎖は塀の奥からジャラジャラと音を立てながら引きずり出てきたが、途中でガチッと音を立ててつっかえてしまった。
好奇心が僕の脚を勝手に動かし、気付けた時には塀の側に立っていた。
無理やり鎖を引っ張ってみると、頭蓋骨に響くような不快な擦れる音と共にそれは出てきた。
手のひらサイズの丸く平べったい物体だった。
鎖と同じ金色をしている。
周囲を一周する細く僅かな隙間から、それが開閉式の物体であることが想像出来た。
端の小さな窪みに爪を引っ掛けて蓋を開くと、僕は踊るように奇妙に歪んだ二本針の時計と対面することになり、一瞬、自分の年齢を忘れてしまった。
気付けばグレープ色に変色していたキリギリスの死体が輪から外れて頭からスローで地面に落ちたのは悲劇的な演出だったのだが、先ほどまで大声で捲し立てていた人々はもはやキリギリスからはすっかり興味を失っていて、事の最重要なピリオドであるその瞬間には気付いてさえいなかったらしく、それもまたキリギリスの新たな体色同様、救い用のない紫色の悲劇であった。
さて、キリギリスはどうして自殺したのだろうか。
「それは単に彼がキリギリスだったからだ」という浅はかな答えにはとっくに飽きてしまっている。



何処から連れてきたのかさえ忘れてしまった灰色の空気が壁に染みこんで抜けないこの部屋で
日常はマトリョーシカ人形のように同じ模様で連続し、尚且つ徐々に縮小していっているのがわかる。



オルゴールの中で飼われる陶器製の黒い鳥は飼い主が窓を閉め忘れた僅か2分の隙を見逃しはしなかった。的無きダーツのような勢いで世界に飛び出すと、路上を埋める無数のセミたちの死骸が見えた。痙攣する枝のような脚から察するに中にはまだ息のある者もいたようだが、鳥は一秒でも時間が惜しいと目の端だけで軽くあしらって故郷へと向かう。
太陽が地上を制する真夏日であった。
日光がぬらりと陶器製の体表を舐め、意識の遠のくような熱を帯びさせてくる。
当てはないし、そもそも自分に故郷があるのかどうかさえ自信はなかったが、鳥はどうしようもなく衝動に突き動かされ
黒い線に見える程素早く、ただただ空を飛び続けている。



自分の好きな色の紙切れ一掴みで作った万華鏡の中の宇宙を一人で気ままに漂っている時間に、電話のベルが邪悪なクトゥルフのように宇宙全体を覆いつくしたせいで、私は世界ごと消滅してしまいました。とっさに出た溜め息が唯一の遺言だなんて、あんまりです。

過去は未来の為に、未来は過去の為に。

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TVの真実に気づいた人間はTVで溢れたこの世界で常時吐き気を感じながら生きていかなければならない。
今隣の席に座った成人男性も脳天からだらんとピンク色のアンテナを剥き出している。

植物が土から芽を出す様子を逆再生にすると地上にいる植物が縮んで土の中に引っ込んでゆく映像になる。その映像を見た人は誰しも一目でそれが逆再生だとわかるだろう。では、休日の公園で風が木を吹き抜けている映像ではどうだろう。ただ単に逆側から風が吹いているだけのように見えて、逆再生だと気が付けないと思われる。

もしも時間が反対方向に流れ始めてしまった時、あなたはどうしますか?
皆さん至る所で重力に背いた出鱈目な踊りを見せつけてくれますが、それが怖くて面白くて。

巨大な境界線によって地域はAとBに二分されていて、AではAとB両方の情報を得られるのに対して、BではBの情報さえ得られないような貧困が標準であり、あまつさえBの住民は自らをAに住んでいるような錯覚をしてしまっている。そのような、全くもって不公平な世界を見ました。

天井は踊り壁は笑い誰もいない廊下からカスタネットが響き時計の針が動物のように回る。
そのような状態にありながら、彼らはより物質としての現実感を帯びていた。
あらゆる常識が破壊される一種の錯乱状態にある光景の中で、慣れに埋没して見えなくなっていた本質を探し出す行為。

男と女は全く別の生き物だという。
その全く別の2つから1つとして生まれてきた僕たちは太陽と月のハーフのような奇跡であるのだろうか。

人類、殊に一般市民は古代のある時期を境に生命体としての衰退を辿り続けている。私がそう言うと、グリアは珍しく口を開いた。
「内在的☆●*!^数は増えていっている。」
そのよく聞き取れなかったナントカ数は生物が生殖を重ねて世代を受け継いでゆく度に確実に加算されるもので、それでいて決して目には見えないものらしい。
「子達の為に自らの生涯を尽くす親は素晴らしいよ、そっちの方が自分自身の本体ということをしっかり弁えている。」

真っ赤な争い。真っ赤な血。冷えて青ざめた頃には"静"けさ。漢字のたった一文字にこのように物語が息づいているので、ズームアップした認識下では日本語の文章は眩暈がするような情報量。発狂を避ける為に脳はズームダウンして調整してくれる。洒落でknow everything…。

星+体内+季節=コンディション

空の闇から香水
心に染み入る憂鬱な香り

水槽の廃墟

薄暗い部屋の一部と化して寝ても覚めても似た光景を繰り返す毎日では孤独感こそ唯一の友人です。
否応なく連続する安いループ映像の静けさ。
まるで水草も魚も居なくなった水槽のよう。
次第に現実感は希薄になり、もはや肉体も生物としての基本的な欲求を忘れかけています。
他人との接触がほとんど無いせいで、身体の外側からかもたらされる情報、感情的な刺激がなく
それに伴い、日常的な会話に於いて重要な脳内で思考を纏めたり発したりする能力が眠りについていっている実感があります。
私は水槽の廃墟に住んでいます。
自己の精神の水に満たされた、昼夜問わず薄暗い時間が流れ続ける水槽です。
そこでは些細な事柄でさえ宇宙的な変化のように感じられます。
自分の体の小さな傷口から血液が流れ出るのでさえ新しい恒星の誕生のように大きなことにです。
外界からの刺激が無い代わりに、自己の内面に目は向きます。
昨日は水槽の中で聞いたこともない音が響いていました。明るい音でした。
大抵は諦めきったように明るい音や悲しい音の二種類です。
中には現実世界の楽器では鳴らせないような音もあるので、いつか自分自身で楽器を作ってみたいと思うこともあります。
とにかく体が衰弱していっています。
簡単な動作でも震えを伴うようになりました。
一方で精神の方は大きく広がっていきます。
闇に隠されているだけで本当は色に溢れた深海で静かに消えていく運命は美しいですか?
おやすみ。

森の中

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こんにちは。
今日はひとけのない森の中で一人で遊んでいました。
さまざまな形状の植物たちが入り乱れる様子はどこか狂気的で
気弱な私はすぐに怖くなって、元の狭い部屋に帰りたくなりました。
昼間だというのに夜のような静けさに満たされているのも怖さの一つです。
それでも好奇心と妙な心地よさに導かれてさらに奥へと足を進めていきました。


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枯葉の絨毯が敷かれた一帯がありました。
冬の名残でしょうね。
歩くとサカサカ音が鳴って面白く、録音して音楽にも使えそうです。
ここでは常時、誰かに見られているような気配をうっすらと感じてもいました。
もちろん周囲に人は居ません。
植物にも視線を持つ者がいるのかもしれませんね。


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最後は小さな湖のある一帯です。
ズームしたせいで少しぼやけてしまっています。
水面は常時静まり返っていて、街には無い時間が流れていました。
ここには結構長い時間留まっていて、湖の中に大きな生き物が潜んでいたり
何か怖いものが沈んでいたりする想像をしていました。


DSC03953.jpg

普段見かけない形の植物がいくつもあって
まるで日本ではない何処か遠い空間に迷い込んできたような感覚になれました。
いつかまた行きたいと思います。
カメラの使い方が下手なのでうまくピントが合っていない写真ばかりなのを惜しく思います。
いつかは写真ブログをされている方々みたいに綺麗な写真を投稿したいです。
心霊写真は撮れませんでした。

ランドセルには虚構の教科書

とある民家のりんごの色が一夜にして全て紫色に変わったというニュースを目にした人の抱いた感想は、
その数秒後に飛び込んでくる骨の無い新種の魚が発見されたというニュースによってかき消された。
さらに直後の殺人事件のニュースによって前の二つの印象は無となり、その後も続々とニュースは飛び込んできて同じような光景が繰り返される。
思考する時間などは許されていない。

用意された家畜用の商品。
用意さえた家畜用の薬。
用意された家畜用のお金。
用意された家畜用の世界観。
用意された家畜用の思想。
用意された家畜用の善悪。
用意された家畜用の価値観。
用意された家畜用の幸福。
用意された家畜用の解釈。
用意された家畜用の言葉。
用意された家畜用の感情。
用意さえた家畜用の意味。
用意さえた家畜用の未来。
用意された家畜用の牢獄。
用意されていない家畜用の出口。

goooooood bye。。。。。

無口な雲

DSC03916.jpg


今日は曇り空。
曇りの日には世界が呼吸していないかのような特有の静けさを感じます。
霧の草原を駆ける不安げな動物の群れを遠くから眺めていたい気分です。

もしも仮面を被らずとも気の合う友人が出来た時は
この世界にある様々な景色を見て何を感じるかを共有したいです。
肉体で動き回るのには色々と面倒ごとも多いので、意識だけ浮遊する半透明の者でもいいのかもしれません。

香りも一種の芸術作品であることを認識しました。
最近の科学技術の進歩はこうも韋駄天ですから
想像上の香りを生み出し、ネット上で人々と共有出来るようになる日もそう遠くはないのかも知れませんね。

曇りの日であっても鳥たちは特に普段とは何も違わないというような顔をして
自分がやりたいことを淡々とこなしています。
なんとなく勇気付けられる光景でもありました。

危機や恐怖や不安など負の方面として分類されがちな感情にもそれ特有の匂いか美しさというものがあって
それを味わう為に自らの身を運ぶような変なこともしたくなります。

一つの景色を見てその場所の過去、未来の風景までを感じ取れるようになればどれだけ面白いでしょうか。




「無口な世界とクク」

ククが外に出ると部屋の煤けたガラス越しに見ていた世界と大して変わらぬ程の暗さでした。
そのことについて、ククは特に何も感じませんでした。
草むらのわき道を通るとき、いつもと違って虫や鳥の気配がないことにククは気が付きました。
この地の終わりが近いのをいち早く察した動物たちが、人の寝てる間にどこか遠くへと大移動してしまったという想像をしました。
そのことについて、ククは特に何も感じませんでした。
ククは古めの民家が立ち並ぶ一帯を歩いていました。
暗い空の下では不気味に目立つカラフルな洗濯物のみを、残して人々の姿は全く見当たりませんでした。
そのことについて、ククは特に何も感じませんでした。
風が吹いて、コンクリートに突き刺さった広告旗が揺られていました。
辺りがしんと静まり返る中で「お得」という楽しげな文字が目立っていました。
そのことについて、ククは特に何も感じませんでした。
ククは特に目的もなく一通り外を彷徨った後、コツコツとコンクリートを鳴らしておきまりの帰路に乗りました。
暗い部屋に帰りつく為に同じく暗い空の下を行くのです。
家のドアを開けると、ククは拒否も歓迎もせぬ無表情な玄関で靴を脱ぎました。
木の階段を微かに鳴らして自室にたどり着くと、ククはまず、いつもの癖でベッドに腰かけました。
しばらくそのまま部屋の壁に視線を預けていたククは
この世界に残された時間はあとほんの1時間ほどしかないことに気が付いてしまいました。
そのことについて、ククは特に何も感じませんでした。

桜の花

改造花2


こんなに晴れた日だというのに、影に照らされたような青い花の色を見ているのですね。


咲いては散り咲いては散り咲いては散り咲いては散り咲いては散り咲いては散り咲いては散り
一本の木に無数の花の一生がちらついている
彼らの一生は決して無意味などではなく
かつての景色として、残り香として、その周囲の世界に確かに刻まれている


その花を見た私が心を打たれた理由は、私の心の欠損した箇所のシルエットと同様だったからです。
狭い部屋のベッドの下では見つけられなかったピースを見つけました。


人に敵対する虫を殺し続ければいつかは温厚な虫のみになる。
敵対する虫を恐れて温厚な虫を殺し続ければ、世界には敵対する虫のみが残る。
そのどちらにも確かな因果が存在し、残酷であり、とても美しい物語でもある。


カタカナのように優雅に散りゆく花びらの光景から毎秒意味を得ています。


今こそ 子らの瞳に日は昇れ

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